2019年12月1日 〈降臨節第1主日〉説教

 主の道を歩もう
 イザヤ2:1-5

  司祭 ヨハネ 井田 泉
  奈良基督教会にて

 今日の聖書からわたしたちに向かって呼びかけてくる声があります

「主の山に登り、ヤコブの神の家に行こう。主はわたしたちに道を示される。わたしたちはその道を歩もう。」イザヤ2:3
「神の家に行こう」
「主の道を歩もう」

 紫の期節になりました。救い主の降誕、クリスマスに向けて準備するときです。いろいろと準備すべきことがあります。けれどもその中心がはっきりしていなければなりません。
 幼稚園の年少の子どもたちに「クリスマスって何の日かな?」と聞くと、初めは元気よく「サンタさんが来る日」と答が返ってきます。けれども、ほんとうは何かもっと別の大事な意味があるらしい、ということを子どもたちなりにだんだん感じはじめます。
 幼い子どもたちのことを笑っていられません。わたしたちも、いろいろしなければならないことに捕らわれて、中心のことを見失う危険があります。中心とは、救い主イエス・キリストをわたしたちのうちに新しくお迎えすることです。

「神の家に行こう」

 イエスさまがおられるところが神の家です。幼子イエスさまに近づきたい。幼子イエス様に新しく出会いたい。もしそれが実現したら、何かが変わります。イエスさまから温かい光が来る。その光を受けると、複雑なわたしたちは素朴にされる。困惑や自己主張の塊になっているわたしたちは、溶かされて柔らかくされて、人への思いやりを持つようになる。「神の家に行こう」という呼びかけを受けて、わたしたちは幼子イエスさまに出会う期待を持って歩み出しましょう。

 もう一つの呼びかけを聞きます。

「主の道を歩もう」

 遠い昔、預言者イザヤが直面して苦しんでいたのは、神さまの道から遠く離れた国と人々の現実でした。大国アッシリアの脅威に対して、恐怖に駆られて戦争準備にひた走る国。富める者がますます財産を蓄積し、貧しい人たちはますます貧しくされていく現実。不安を抱えて占いやまじないに頼り、あるいは死者の声を聞かせてくれるという霊媒に助けを求めようとする人々。いずれも主の道から逸脱した滅びの道です。しかしイザヤがいくら努力し、苦労し、戦い、傷ついても、彼の真実の声は聞かれず拒否される。

 苦悩の限界に達したとき、彼は神さまから幻を示されました。幻の中で彼は声を聞き、人々の姿を見ました。それが今日のイザヤ書の言葉です。冒頭の1節にこう記されていました。

「アモツの子イザヤが、ユダとエルサレムについて幻に見たこと。」2:1

 信仰者(神を信じる者)というのは、この世界の現実の中に生き、現実に苦しみながら、しかし現実に圧倒されない、現実に呑み込まれない何か(幻=ビジョン)を神さまから与えられている存在です。幻とは、蜃気楼のようなものではなく、秘められたもう一つの現実です。
 イザヤは神から与えられた幻の中で、国々、人々が大河のように大きな流れをなして神の家に向かっているのを見ました。そして呼びかける人々の声を聞きました。

「主はわたしたちに道を示される。わたしたちはその道を歩もう。」

 当時の人々はほとんどこの声を聞きませんでした。聞こうともしませんでした。しかしイザヤの見た幻の中に、彼の語った言葉の中に、神の声を聞いて、それを書きとめ、伝えた人たちがいました。言い換えれば、主の道を歩もうとした人たちが存在しました。そのゆえに二千数百年の時を経て、この言葉がわたしたちにまで伝えられたのです。
 そしてこれを埋もれされるのではなく、忘れ去るのではなく、これを受け継ぎ生かす人がいなくてはなりません。それは、ほかのだれかではなく、わたしたちです。皆さんです。

「主はわたしたちに道を示される。わたしたちはその道を歩もう。」

 この呼びかけによって目覚めさせられ、これによって新たに歩み始めるのは、わたしたちです。

 わたしたちは預言者イザヤより恵まれています。なぜなら、イザヤはまだ知らなかったけれども、わたしたちはイエス・キリストを知っているからです。
 わたしたちに先立って、イエスがその道を歩まれた。イエスがわたしたちのために歩むべき道、生きる道を開拓してくださった。わたしたちがその道を歩むとき、主イエスがともに歩んでくださいます。

「主はわたしたちに道を示される。わたしたちはその道を歩もう。」

 その道は憎しみの道ではなく愛の道。絶望ではなく希望の道。戦いではなく平和の道です。4節にこう言われていました。

「主は国々の争いを裁き、多くの民を戒められる。彼らは剣を打ち直して鋤とし/槍を打ち直して鎌とする。国は国に向かって剣を上げず/もはや戦うことを学ばない。」2:4

 今の世界、今の日本に呼びかけられている声です。

 イザヤの見た幻、聞いた言葉の中に、今、神さまがわたしたちを愛しつつ呼びかけておられる声が聞こえます。

「ヤコブの家よ、主の光の中を歩もう。」2:5
「わたしの愛の光の中を歩め。」

 主の道は光の道。その光の道を歩むように。アドベントのろうそくが輝き始めています。

 祈ります。
 神さま、昔預言者イザヤが聞いて伝えたように、わたしたちにも主の道を歩ませてください。このクリスマスに、幼子として来られた救い主に新しく出会わせてください。その願いを心の中心に抱いて、降臨節を過ごさせてください。主のみ名によってお願いいたします。アーメン