2020年9月13日<聖霊降臨後第15主日>説教

「赦すこと」

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マタイによる福音書18章21~35節

 イエス様は問いかけます。「それではあなたはわたしを何者だというのか」と。「あなたは」どうなのか。「あなたの」信仰はどうあるべきか。「あなた自身」どう生きていくべきなのか、今日の箇所で、イエス様はそのことを問いかけているように思います。

 あるときペトロがイエス様に聞きました。「主よ、兄弟がわたしに対して罪を犯したなら、何回赦すべきでしょうか。七回までですか」。先週わたしたちは兄弟が罪を犯したとしても二人だけのところで忠告しなさいというイエス様の言葉から、わたしたちは裁くことや排除することよりも、ゆるすということが神さまのみ心だと知りました。

 同じようにペトロも思ったでしょう。「そうか、赦さないといけないのか」。でも同時に不安に思ったと思います。「赦すとは言っても限度がある。何回までなんだろう」。日本には「仏の顔も三度」ということわざがあります。あんなに温厚な仏さんだって三度も顔を撫でる、これは理不尽なことをするということですが、そうしたら怒り出すという意味です。

 たとえばわたしがみなさんに対して罪を犯すとします。みなさんは何度までだったらゆるしてくれますか。罪の程度にもよるでしょう。とんでもなく神さまに背くような罪だったらどうでしょうか。そう考えたときにペトロが言った七回、わたしはすごいなあと思います。そんなの三回が限度だとか、一回で追放よとか、それが普通です。

 でもイエス様は言われます。七の七十倍までも赦しなさいと。七掛ける七十は490だから名簿を作って、それぞれの名前の横に赦した数だけ正の字を書いていって、480回くらいになったらその人を呼び出し、「カウントダウン始まるよ」ってささやく。そういうことではありません。

 七の七十倍赦す、それは際限なく、無限に赦せということです。いつでも、どこでも、どんなときでも赦すんです。どんな罪でも、大きかろうが、小さかろうが、とにかく赦せとイエス様は言われる。そして一つのたとえを語られます。

 あるところに、王様に一万タラントンの借金をしている家来がいました。一万タラントンといっても、ピンとこないと思います。日本のお金に換算しますと、だいたい6000億円だそうです。国税庁が調べた日本人の平均年収は441万円ということ。普通に働いても13万6千年かかるとんでもない額です。計算間違っていたらすいません。

 言いたいのは途方もない額だということです。現実離れした金額です。もしかすると額が多すぎて自分とは違う世界の話のように聞こえるかもしれません。でもその家来は、王様にそれだけの借金をしていた。6000億円もの負債があったわけです。それだけのお金を借りたのか、それだけの失敗をしたのか、それは分かりません。

 しかし彼にはそれだけの負い目がありました。一生かかっても、13万年かかっても返すことのできないほどの借金を抱えた彼が、王様の前に連れて来られます。彼は生きた心地などしなかったことでしょう。どんな目に合うのか、どんな罰を受けるのか、わかったものではありません。

 王様は、彼のことをじっと見ました。必死に頭を下げ、しきりに願うその姿を見て、憐れに思いました。そして驚くべきことをされます。彼を赦し、その借金を帳消しにしてやったのです。

 このたとえはペトロが一体何度まで赦したらいいんですかとイエス様に尋ねたことに対する返答でした。イエス様はこう言って、この話を始めました。「天の国は次のようにたとえられる」と。

 たとえで言われている最初のこと。それは王様は、6000億円という家来の巨額の借金でさえも、赦してくださる。なかったことにしてくださる。家来って誰でしょうか。王様って誰のことなのでしょうか。

 天の国の王様は、きっと神さまなのでしょう。それではその多額の負債を抱えた家来は誰ですか。本当だったら王様の前になど立つことのできない、それなのに一切を帳消しにしてもらって家に帰ることを許された家来、それはわたしたちのことではないでしょうか。

 わたしたちは完全な人間ですか。非の打ちどころのない一人ひとりでしょうか。そうではないと思います。夜寝る前に祈るとき、どれほどの後悔を覚えますか。一日のうちに何度も人を傷つけ、何度も人を悲しませ、何度も人を裏切っている。たった一日だけでも神さまの前に正しい者になれない。負債は増すばかりです。借金は膨れ上がります。

 でもわたしたちは、こうして礼拝に来ることが許されている。共に祈ることができる。それは神さまが「いいよ」って言ってくれたからです。6000億円でも足りないかもしれないわたしの罪を、あなたの罪を、すべて帳消しにしてくださる。それが神さまとわたしの関係、神さまとあなたの関係、「われ、汝」の関係なのです。

 ところが物語は続きます。その借金を赦された家来は、自分に借金をしている人を見つけ、牢に入れてしまいます。その借金の額は100デナリオン。だいたい100万円です。決して少ない額ではありません。

 でも、6000億円と比べたらどうですか。6000億円と100万円。これが天の国のたとえなのです。わたしは、そしてあなたは神さまに赦された。とてつもなく大きな負債を赦された。わたしは神さまに赦された。あなたも神さまに赦された。これがわたしたちと神さまの関係なのです。

 ところが、わたしたちは許しているのか。7回どころか5回も許せない。5回どころか3回も許せない。3回どころか1回も。そのようなわたしたちを、神さまはどう見ておられるのでしょうか。

 このたとえは二つのことをわたしたちに教えてくれます。一つは、憐れみ深い神さまはあなたを赦し、受け入れてくださっているということ。そしてもう一つは、だからあなたも、同じようにしなさいということ。赦し、受け入れ、となりの人と共に歩みなさいということです。

 「あなたは」どうなのか。「あなたの」信仰はどうあるべきか。「あなた自身」どう生きていくべきなのか、この問いかけに、わたしたち一人ひとりしっかりと耳を傾け、歩んでいきましょう。